「子供を産んだことのある女性の骨密度は、子供を産んだことのない女性に比べて高いと思いますか?それとも低いと思いますか?」
このような質問をされたら、皆さんはどのように答えるでしょうか?
●骨密度は低くなるという考え
骨密度が低くなるという考えは、例えば、以下のような流れから考えられます。
骨はカルシウムの貯蔵庫である
↓
体がカルシウムを必要とすると、骨からカルシウムが溶け出して供給される
↓
胎児の成長には大量のカルシウムが必要
↓
妊娠・出産回数が多い女性ほど、骨からカルシウムがたくさん失われる
●骨密度は高くなるという考え
骨密度が高くなるという考えの場合は、以下のような感じです。
・妊娠中は、妊娠していない時よりも食べた食品からのカルシウム吸収率が大幅に上昇する
・体にかかる負荷が重いと、骨密度は高くなる
(妊娠したり、赤ちゃんをだっこしたりすると、その分、母親にかかる負荷が重くなる)
●エビデンス
解剖学や生理学の断片的な知識を集めて組み立てて推測すると、自分にとって都合の良い知識だけを集めることができるため、上記のように同じ話題でも異なるストーリーを作ることができてしまいます。
そのため、実際はどうなのかという『エビデンス(根拠)』をみることが大切です。
妊娠回数別に椎骨骨密度を測定したある横断研究では、妊娠回数で分けた3つのグループ(妊娠なし、1~2回の妊娠、3回以上の妊娠)で、1回以上妊娠した女性の骨密度は、妊娠経験のない女性の骨密度よりも高い傾向があります。
※年齢や運動の程度、体重、喫煙習慣、食事週刊などについての差はなし
また、その他の研究でも同じような結果が観察されているようで、冒頭の質問の正解としては『骨密度は高くなる』が正しいようです。
さらに、似た質問で「子供をたくさん産んだ女性は、子供を産んだことのない女性よりも骨折しやすいか」というものがあります。
これに関しても、今まで行われた研究の中で最も信頼度の高い方法で行われた結果によると『骨折しにくい』が正解のようです。
私は質問をみて、
「妊娠すると子供にカルシウムが必要になるが、吸収量が増えるため骨密度にはそれほど変化がない。だろう」
というように考えていましたが、実際は違いました。
細かい理論を考えるのも大切ですが、臨床での試験結果がある方が信頼できそうです
(さ)
<参考>
・分かりやすいEBNと栄養疫学(佐々木敏:著)
・Paton,et al.,Am J Clin Nutr,2003;77:707-14
・Michaelesson,et al.,Am J Epidemiol,2001;153:1166-72