近年、「胎児期や乳児期の生活環境と、成長後の疾患との密接な関わり」についての研究である「DOHaD(ドハド)」が注目されています
今回は、そんな聞きなれないDOHaDについてご紹介したいと思います
DOHaDとは?
DOHaDは、Developmental Origin of Health and Diseaseの略で、「胎児期(さらには胎児になる前の胎芽期)や乳児期の環境因子が、成長後の健康や様々な疾患の発症リスクに影響を及ぼす」という概念です。
実は、第二次世界大戦末期に、ナチスドイツによる出入港禁止措置のため、オランダの一部の地域で激しい飢餓に陥り、約4か月という短い期間に妊婦の多くが飢餓状態となりました。
そして、その妊婦から低出生体重児が多く生まれ、成人になった後に肥満、高血圧、虚血性心疾患、腎疾患、精神疾患などに多くが罹患していたという驚くべき報告がありました。
その後「生活習慣病の起源は胎児期にあるのではないか?」という仮説が立てられ、多くの研究者が検証を行った結果、最近では胎児期だけでなく乳児期の環境も成人後の疾患に影響を及ぼすことが明らかとなってきています。
DOHaDと生活習慣病
母体の栄養不足(主に糖質)の状況では、胎児はお腹の中で生き耐えるために血糖値を維持しようと、血糖値を下げる働きをするインスリンの分泌能を抑制し、さらにインスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)を獲得しやすくなると仮説が立てられています。
そのため、産まれた後に過剰な栄養を補給することで糖尿病になりやすいと考えられます。
また、母体が低栄養(ビタミンA欠乏を含む)の場合には腎臓の機能単位であるネフロンの数が少なくなり、出生後に慢性腎不全や高血圧になりやすいという見解もあります。
この他、妊婦の感染や薬剤(エタノール、ゲンタマイシン、NSAID等)、子宮外発達遅延、出生後のステロイド・抗菌剤投与なども腎機能低下のリスクが上がり、腎疾患の原因になると考えられています。
さらに、母体の栄養の不足だけではなく過剰にも注意が必要です。
もし母親に耐糖能異常(インスリン抵抗性)や肥満がある場合でも、子供は肥満しやすくなるという報告があります。
DOHaDとエピジェネティクス
DOHaDの研究者の中では、疾病の起源は「低栄養や環境因子により胎児にエピジェネティックな変化をもたらすことである」という考え方に注目が集まっています。
エピジェネティクスとは「DNAの塩基配列変化を伴わない遺伝子発現を調節するシステムを解明する学問」のことですが、以前ブログでまとめたことがありますので詳しくはこちらをご覧ください。
エピジェネティクスと栄養
母親が受けた環境により、胎児の遺伝子が「ON」となるべき所が「OFF」となったり、またはその逆の変化が起こる事で将来の疾病のリスクが高くなることが示唆されています。
また、母親だけでなく父親の精子の質や精子の持つマイクロRNAの影響も強いと考えられています。
そして、体内でのエピジェネティックな変化にはメチル基(-CH3)が不可欠であるため、体内でメチル基を運んでいる葉酸やビタミンB12などの栄養素が十分に足りている事が重要だと言われています。
妊婦さんでは、子どもの神経管閉鎖障害を予防するために妊娠前から妊娠初期にかけて葉酸を補うことが奨励されていますが、日本人の若い女性では葉酸をはじめとする多くのビタミン、ミネラルが不足しています
実際に日本人の若い女性が摂取している葉酸量と、それぞれの状態で必要になる葉酸量は以下の通りです。
【各年代の葉酸摂取量(1日あたりの平均値)】
・15~19歳 229μg
・20~29歳 217μg
・30~39歳 233μg
・40~49歳 234μg
【女性の葉酸の推奨量】
・18歳以上 240μg
・妊娠希望、妊娠の可能性のある女性 640μg
・妊婦 480μg
・授乳婦 340μg
本来であれば、上記の推奨量以上(上限量は900~1,000μg)摂取する必要がありますが、全然足りていません
エピジェネティックな変化を考えると、妊娠前と妊娠初期だけでなく妊娠前、妊娠期間中から授乳中も葉酸(ビタミンB12も)不足なくしっかり補った方が良さそうです
まとめ
現代の日本では飢餓になることはほとんどありません。
しかし、メディアの影響からか、妊婦さんでもダイエットを行い体重を増やさないようにしている方も多いようです
そのため、日本でも妊婦さんの過度なダイエットなどのために第二次世界大戦末期のオランダと同様の症例が見られています。
自分の体重(体形)も気になるかもしれませんが、子どもの将来を考えて栄養補給や体重管理をしたいものですね💡
(さ)
・H25国民健康栄養調査結果