前回までは、半数以上の女性に潜在性鉄欠乏症が起きている現状や体内で厳密にコントロールされている鉄の代謝についてご紹介してきました😊🎵
ブログ:「あなたは大丈夫?『隠れ貧血』① ~潜在性鉄欠乏~ 」
:「あなたは大丈夫?『隠れ貧血』② ~鉄の代謝~」
身体活動に欠かせない栄養素で大部分を体内で再利用されている鉄が、どうして不足するのでしょうか?
今回は「鉄不足の原因」と「鉄欠乏対策の現状」についてご紹介します📢✨
目次
鉄不足の原因(主な例)
体内の鉄が不足する原因には、以下のものが考えられます。
◆ 鉄不足の原因(主な例)◆
女性に鉄欠乏が多い原因
① 月経による鉄の喪失
男性の貯蔵鉄は約1mgとされていますが、女性は貯蔵鉄量が少ないため、鉄欠乏を生じやすいといわれています。
また、月経がある女性は一度の月経で約30㎎の鉄を喪失してしまいます。(個人差あり)
この時期の鉄欠乏を見逃すことで、月経前困難症(PMS)や、早産のリスクも懸念されています。
仕事や家事・育児をしている女性、妊娠・出産を控えている女性にとっては深刻な問題です😫💦
◆ 月経がある女性の鉄の喪失量 ◆
参考資料:働く女性の健康応援サイト
② 食品中の鉄濃度の低下
女性の鉄摂取量の年次変化をみると、1975年までは12g/日で、所要量が満たされています。
ですが、2000年を境にその摂取量は8mg未満まで減少し、その傾向は今でも続いています。
◆ 女性の鉄摂取量の年次変化 ◆
参考資料:小阪昌明,四国医誌 68巻1,2号 13~18 APRIL25,2012(平24)
その原因の一つには、食品中の鉄濃度の低下も考えられています⤵
近年の食品の生産方法・加工技術の変化によって、様々な食品が影響を受けているようです😰
◆ 生産段階での低下 ◆
Connie Weaver氏らの研究では、1999年から2018年の間に、豚肉、鶏肉、果物、野菜、トウモロコシ、豆類など1,000品目以上の食品のうち、62.4%の食品で鉄濃度が低下しているという報告があります。
Weaver氏らは、既報をもとに「単位面積あたりの収穫が増えたため、農作物の栄養素が少なくなったのではないか」との考察を加えています。
詳しくは:The Journal of Nutrition 第 151 巻 第 7 号 2021
◆ 加工段階での低下 ◆
「日本食品標準成分表2015(7訂)」では、干しひじきの鉄含有量の記載内容が変更されました。
2010年:55.0mg → 2015年:6.2mg (食品100gあたり)
9分の1に変更された理由は「蒸し煮に使われる釜がステンレス製が主流になったから」だそうです。
詳しくは:ブログ「ひじきの鉄分が9分の1に減った?!」
➂ 摂取量の不足
月経のある成人女性の平均鉄摂取量は、成人男性と比較して大きな差がありません。
女性の鉄欠乏が懸念されている一方で、食事による鉄の摂取量の増加には反映されていないようです😥
◆ 年代別摂取量と鉄欠乏の割合 ◆
参考資料:2003年国民栄養調査及び日本人の栄養所要量(健康・栄養情報研究会、第6次改訂)
④ 医薬品の利用状況
食事での摂取量が低値である一方で、鉄剤などの利用状況はどうかを調べました。
下記の表は、令和元年 国民健康・栄養調査「20歳以上の貧血治療のための薬(鉄剤)の服薬状況」です。
鉄剤(医薬品)の利用においても、2.5%以下と低値であることがわかります。
◆「貧血治療のための薬(鉄剤)」を利用した割合 ◆
参考資料:令和元年 国民健康・栄養調査 第21表 薬の服用状況
また、鉄のサプリメントや補助食品の利用も有効とされていますが、わが国では鉄補助食品を利用する人が増加傾向にあるものの約3%と少なく、米国の23%,スウェーデンの27%,デンマークの35.1%などと比べても著しく少ないとの報告があります。
詳しくは:日本鉄バイオサイエンス学会 HP
鉄欠乏は世界各国の問題
鉄欠乏が様々な不調の原因となることから、「ヘモグロビン数値」「血清フェリチン値」などを組み合わせた鉄欠乏性貧血、潜在性鉄欠乏の調査は世界各国で行われています。
◆ 世界の女性の鉄欠乏性貧血・潜在性鉄欠乏の頻度 ◆
参考資料:内田立身 「鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の予防指針」 日本鉄バイオサイエンス学会 筆者一部修正
世界的には、鉄欠乏の頻度は、発展途上国が30~70%であるのに対し、先進国では国として様々な対応がとられ、20%をきったことが報告されています。
その中でもわが国は、鉄欠乏性貧血、潜在性鉄欠乏ともに先進国の中では多い部類に属します😣💦
課題は鉄の摂取量
2021年 国民健康・栄養調査では、わが国の鉄の摂取量は先進国の中で最も低いとの報告があります。
鉄の摂取量は世界的には貧困と関連していると考えられている中、この状況は特異的です😥
◆ 諸外国の女性の栄養素等摂取量の比較 ◆
参考資料:国立健康・栄養研究所 栄養疫学・食育研究部 2021.6 筆者一部修正
諸外国の対応
①食品への鉄添加
鉄欠乏の予防については、WHO(世界保健機関)やCDC(疾病対策予防センター)がガイドラインを作成し、国ごとに予防対策が講じられています。
食品へ鉄を添加することが、国民の鉄についての栄養状態を改善するのに有効な手段であることが認められており、下記に示されたような食材や調味料に鉄が添加されています。
最も多いのは小麦粉への添加です。
◆ 食品への鉄添加の現状 ◆
参考資料:日本鉄バイオサイエンス学会 「鉄剤の適正使用による貧血治療指針[第3版]」
米国での小麦粉への鉄添加は1941年から開始されました。
(添加量:小麦粉1ポンドあたり12mg=100gあたり2.64mg)
これにより、1976~1980年の女性の鉄摂取量の平均が10.7mgから、1988年~1991年の調査では13.4mgと改善され、女性の鉄欠乏の頻度は9~11%に、鉄欠乏性貧血の頻度は2~5%に減少しました。
② その他の対策
このほかにも、隣国の韓国では妊娠期の対策として、保健所に登録された妊婦に対して葉酸と鉄のサプリメントが公費で支給されているそうです🎁
葉酸のサプリメントは妊娠3ヶ月まで、鉄のサプリメントは妊娠5ヶ月以降に支給されているとのことです☺🎀
詳しくは:池田かよ子「韓国の食・出産文化における妊婦管理と産後ケアの実際」
まとめ
「あなたたは大丈夫?『隠れ貧血』」として、身体活動に欠かせない鉄の大切さをご紹介してきました☺
ブログ:「あなたは大丈夫?『隠れ貧血』① ~潜在性鉄欠乏~」
:「あなたは大丈夫?『隠れ貧血』② ~鉄の代謝~」
2023年現在、わが国の「鉄欠乏の対策」は何らとられておらず、個人の対応に委ねられています。
気づかれにくい『隠れ貧血』の予防のために、これらの情報が少しでもお役に立てば幸いです🍀
具体的な「鉄の補給方法」については、こちらをご参考になさってください☺🎵
ブログ:鉄の種類と鉄の補給方法
厚生労働省HP:「身体状況調査の結果」
厚生労働省HP:(2)微量ミネラル ①鉄(Fe)
日本鉄バイオサイエンス学会 「鉄剤の適正使用による貧血治療指針[第2版]」
日本鉄バイオサイエンス学会 「鉄剤の適正使用による貧血治療指針[第3版]」
厚生労働省HP:『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』
働く女性の健康応援サイトHP
諸外国の栄養素等摂取量の比較:国立健康・栄養研究所 2021
池田かよ子,新潟青陵学会誌 第7巻第1号 2014 年9月
川端浩,CDEJ News Letter 第 24 号 2009
Connie Weaver,The Journal of Nutrition 第 151 巻 第 7 号 2021
ヘルシーパスブログ:「ひじきの鉄分が9分の1に減った!?」
はっしー
管理栄養士