果物を食べたら口の中がかゆくなった…そんな経験はありませんか?
近年、口の中のかゆみなどから始まる、学童期~成人の食物アレルギーが注目されています。
アレルギーの発症メカニズムと交差反応の原因物質、食物の抗原(アレルゲン)についてご紹介します。
目次
増加する 大人の食物アレルギー
近年、食物アレルギーの患者数は増加傾向にあります。
1歳未満の乳幼児期の発症が最も多いですが、小児から成人の幅広い年代でも発症が認められており、実に成人の10人に1人が食物アレルギーであるといわれています。
食物アレルギーの分類
食物アレルギーには、大きくクラス1とクラス2に分ける方法があります。
クラス1 食物アレルギー
抗原となる食べ物を食べた後、体内に抗体ができ、再度同じ抗原食物を食べたときに、抗体と反応することで発症します。
乳幼児期の、卵・牛乳・小麦などがよく知られています。
成長とともに消化管が発達し、バリア機能ができると約9割が寛解するといわれています。
クラス2 食物アレルギー
学童期~成人に多いアレルギーで、花粉やラテックスなど食物以外のタンパク質が抗原となり、似た抗原をもつ植物性食品を食べ、交差反応により発症します。
原因食物は年齢ごとに異なり、果物類、甲殻類、小麦、木の実類などが多い傾向です。
発症のメカニズム
交差反応とは、花粉などの抗原による経粘膜・経気道感作後に、花粉と似たタンパク質をもつ植物性食物を経口摂取してアレルギー症状を引き起こすことです。
花粉の交差反応に関与するタンパク質は、シラカバ・ハンノキは「Bet v 1 ホモログ」、スギは「Polygalacturonase」、ブタクサは「プロフィリン」です。
それぞれと共通したタンパク質をもつ植物性食品が、交差反応を引き起こしアレルギーを発症します。
症状
口腔アレルギー症候群( OAS:oral allergy syndrome )
原因食物が口腔粘膜に接触後15分以内に口腔、咽頭、 口唇粘膜の刺激感、かゆみを生じます。
しばらくして 自然に良くなりますが、浮腫、水疱を併発したり、まれに蕁麻疹や鼻炎症状、咽頭閉塞感、下痢や腹痛、さらにはアナフィラキシーショックを呈することもあります。
花粉ー食物アレルギー症候群(PFAS:pollen-food allergy syndrome )
口腔アレルギー症候群のうち、花粉に交差反応性を示すものをPFASといいます。
治療の基本は原因食物の除去ですが、おもな抗原であるBet v 1ホモログやプロフィリンは熱に不安定であるため、果物は缶詰で、生野菜の場合は加熱することで摂取可能となります。
花粉以外の交差反応
花粉以外のタンパク質が抗原となる交差反応のアレルギーには、さまざまな組み合わせがあります。
ラテックス(天然ゴム) × 果物など
《 原因アレルゲン:ヘベイン(Hev b 6)》
ゴム手袋のタンパク質が皮膚や粘膜に触れ経皮感作し、栗、バナナ、アボカド、キウイフルーツなどの果物に交差反応し発症。
医療従事者に多い。
イヌ・ネコのマダニ × 牛肉・豚肉
《原因アレルゲン:galactose-αー1,3ーgalactose》
pork-cat症候群、α-Gal症候群とよばれるアレルギー。
イヌやネコのマダニの咬傷から感作し、牛肉や豚肉に交差反応し発症。
羽毛・鳥のフン × 鶏肉・卵
《原因アレルゲン:Gal d 5》
Bird-egg症候群とよばれるアレルギー。
経気道感作後、鶏肉、鶏卵(特に卵黄)に交差反応し発症。
クラゲ × 納豆
《原因アレルゲン:poly-γーglutamic acid(PGA)》
クラゲが刺すときに産生するポリガンマグルタミン酸(PGA)という成分が体内に入ると抗体ができ、後に納豆のネバネバにも含まれるPGAと交差反応し発症。
食べてから5~14時間後に遅発性アナフィラキシーを引き起こすのが特徴。
PGAは腸内での消化に時間がかかるため、症状の発現が遅くなると考えられている。
食品添加物 × アイシャドウ
食物添加物の赤色着色料(コチニール)とアイシャドウや口紅に含まれる赤色色素「カルミン」が交差反応を示す食物アレルギー。
女性に多く、まぶたの腫れやアナフィラキシーがおもな症状。
運動が原因となる食物アレルギー
食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FDEIA)
原因食物の摂取後2時間以内に、運動や入浴、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用、飲酒、疲れなどの要因が合わさることで起きます。
発症は学童期以降に多く、タイミングは昼食後の発症が多いようです。
症状は皮膚症状、咳、呼吸困難などで、進行が早く約半数は血圧が低下してショック症状を起こします。
発症時は救急車で病院へ搬送するなど迅速な対応が必要です。
運動がアレルギーの引き金になる理由は、運動負荷による食物抗原吸収量の増加、自律神経の関与、ヒスタミン遊離閾値の低下、消化管粘膜の障害、小麦の主要抗原ω-5グリアジン血中濃度の増加などが考えられています。
アレルギー対策の栄養素
特定の食品の摂取を避けるだけではなく、食生活を見直して免疫を正常化することも大切です。
タンパク質
皮膚や粘膜の材料となる。
単一の食品に偏らず、肉・魚・卵・大豆製品など様々な食品からバランスよく摂取する。
魚油
魚に含まれる良質な油は、DHA・EPA、ビタミンⅮなどが豊富で、免疫系の制御や炎症の抑制に役立つ。
ビタミンA
皮膚や体内にある気管や消化管などの上皮細胞において、粘膜バリアをつくる役割がある。
ビタミンD
アレルギーによる炎症を抑制して、免疫寛容を促進するとの報告がある。
ビタミンⅮは、紫外線を浴びることで体内でも生成されるので、1日10~15分程度の散歩もおすすめ。
プロバイオティクス
腸内環境を整えることで、バリア機能を高め、未消化の食べ物やウイルスの侵入を防ぐ。
自己判断せず、医療機関の受診を
食物アレルギーの診断は、医療機関での詳細な問診と血液検査に加え「食物経口負荷試験」が必要です。
正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去が推奨されており「心配だから」という理由での過剰な除去は避けてください。
アレルギーポータル
日本アレルギー学会HP
アレルギー 56(5)451-456 2007
Yuji Nakamaru 専門医通信 117-702 2014
Yasuto Kondo 口腔科 32(2) 103~107 2019
Yokooji Tomoharu 40(5) 284-290 2015
日本豆乳協会HP
猪又直子 マルホ皮膚科セミナー 2015
hoyu HP
アレルギー疾患の手引き2022
櫻本美輪子 医師が教える子供の食事 株式会社ワニブックス 119-121 2020
はっしー
管理栄養士