あなたは大丈夫?『隠れ貧血』② ~鉄の代謝~


前回はあなたは大丈夫?『隠れ貧血』① ~潜在性鉄欠乏症~」として、気づかれにくい潜在性鉄欠乏症についてお伝えしました。
体内の鉄の量を保つためには、鉄の代謝を知り「吸収量>喪失量」とする意識が大切です☺🍀
今回は「鉄の代謝」「吸収と喪失のバランス」についてご紹介します📢✨

鉄の代謝

鉄は体内で再利用されている

赤血球の寿命は120日程度で、毎日約1/120の赤血球が破壊され生まれ変わっています。
その処理された赤血球由来の鉄は排泄されずにそのほとんどが再利用されています。

◆ 鉄の代謝 ◆

1⃣ 十二指腸・上部小腸から吸収され血液中に入る。

2⃣ 血液中ではトランスフェリンが結合血清鉄として全身に運ばれる。

3⃣ 貯蔵鉄 ・・・一部は肝臓でフェリチンというタンパクに結合し貯蔵鉄となる。(全体の約25%)
  組織鉄 ・・・筋肉・脳・肌など、全身の細胞で利用される
  骨髄  ・・・大部分の鉄はヘモグロビンの構成成分として、骨髄での赤血球造血に利用される。(全体の約70%)

4⃣ 生成された赤血球は全身を循環し酸素の運搬を行う。

5⃣約120日の寿命を迎えると老廃赤血球は脾臓で破壊され、ヘモグロビンから取り出された鉄は再び血液中に入り再利用される。

鉄吸収のメカニズム

吸収のメカニズムは、食事中の非ヘム鉄(植物性)ヘム鉄(動物性)では異なります。

◆ 十二指腸上皮における鉄吸収機構 ◆

参照:小阪昌明,四国医誌 68巻1,2号 13~18 APRIL25,2012 筆者一部修正

 非ヘム鉄(植物性食品)
胃酸により可溶化される。(pH3よりアルカリ側では不溶性)
  
さらにビタミンⅭと十二指腸粘膜細胞表面のDyctB(チトクロームB)によって2価鉄に還元される。
  
DMT ー1(Divalent Ⅿetal Transporterー1)を介して腸管細胞内に吸収される。

 ヘム鉄(動物性食品)
ヘム鉄は、細胞内でヘムオキシゲナーゼにより2価鉄イオンとポルフィリン環に分解され、そのままの形で吸収される。
  
HCP-1(Heme carrier protein 1:ヘム運搬蛋白)により腸管内に吸収される。
詳しくはブログ「ヘム鉄の『ヘム』って何?

      

 吸収後の非ヘム鉄ヘム鉄は…
取り込まれた鉄は、ヘプシジン(Hepcidin)に制御されているフェロポルチン(Ferroportin(FPN):鉄輸送膜蛋白)と結合して血中へ輸送される。
  ↓
ヘフェスチン(Hephaestin)によって2価鉄から3価鉄に変換される。
  ↓
血液中に放出された3価鉄は、1分子のトランスフェリンに2分子結合し鉄結合トランスフェリン(血清鉄)となり全身に運搬される。

鉄の吸収については解明されてない点も多く、新たな輸送体の発見や機能制御の解明によって人類が直面する鉄欠乏と鉄過剰の問題への貢献が期待されています😊✨

1日の吸収と喪失のバランス

◆ 鉄の吸収と喪失 ◆

体内の鉄の量は、一定範囲内に調節されるよう厳密に制御されています✨⚖✨

 吸収 
非ヘム鉄、ヘム鉄それぞれの吸収率を考慮すると、鉄全体の吸収率は約10%程度です。
1日10mg程度の鉄を摂取しても、1日の喪失量に相応する鉄(1mg/日程度)しか吸収されません。
また、赤血球産生能,貯蔵鉄量,食事の鉄の量と質,吸収促進・阻害物質の有無などの影響も受けます。

 喪失 
十二指腸で吸収されなかった鉄は、便や尿とともに排泄されます。
さらに、消化管上皮細胞の脱落や汗などで全体で約1mg/日程度を喪失しています。
(ただし、出血などがある場合は、さらに喪失してしまいます。)

鉄の利用は、新規に体内へ吸収された鉄が主体ではなく、体内に既に存在している鉄を再利用しているものが大部分を占めています
このことから、鉄代謝は半閉鎖的回路を構築しているといえ、非常に大きな特徴と言われています。

鉄吸収の調節機能

鉄の恒常性は、小腸からの吸収マクロファージからの鉄の放出で保たれています

鉄が不足すると…
肝臓からのヘプシジンが減少 → フェロポルチン(FPN)の作用が高まって上皮細胞から血液への鉄の移出量も増加 → 腸管での鉄の吸収率が高くなる。

鉄が過剰になると…
ヘプシジンの分泌によってフェロポルチン(FPN)の作用が抑制→ 鉄の吸収率は低下する。
網内系を介した鉄の再利用も抑制される鉄過剰を是正する方向に機能する。
留まった鉄は上皮細胞内にフェリチンとして貯蔵され、細胞の剥離に伴い消化管に排泄される。
人体には、一度蓄積してしまった鉄を積極的に排泄するシステムは備わっていません。

 ※ 肝機能障害がある場合は、ヘプシジン産生の低下によって鉄が過剰に蓄積する可能性があります。

過剰な鉄の蓄積は活性酸素を作り出すため、様々な臓器障害を引き起こす原因となります。
食事以外で積極的な鉄補充をする際は、医療機関へのご相談をおすすめします。

まとめ

体内の鉄の量は一定範囲内に調節されるよう厳密に制御されています✨⚖✨
また、鉄の吸収と排泄はわずかで、体内に存在する鉄が再利用されています♻
では「なぜ、鉄欠乏になるのか?」疑問に思われた方もいるかもしれません。
次回は「あなたは大丈夫?『隠れ貧血』➂ ~鉄不足の原因と対策~」として、様々な原因と対策の現状についてお伝えします📢✨
おたのしみに😊🎵

「病気がみえる Vol.5 血液」MEDIC MEDIA
周産期医学Vol.52 増刊号 2022
鉄剤の適正使用による 貧血治療指針  日本鉄バイオサイエンス学会
ILS株式会社 HP
川端浩,CDEJ News Letter 第 24 号 2009
友杉直久,日内会誌 第99巻 第 6 号 2010
小阪昌明,四国医誌 68巻1,2号 13~18 APRIL25,2012
篠田粧子,化学と生物 Vol.52,No.1,2014
張替秀郎,日内会誌 104:1383~1388,2015
穂苅 量太,日内会誌 100:126~132,2011 
友安茂,昭和 医会 誌 第67巻 第5号  344-350,2007
斉木博,東京工科大学HP

この記事の著者

はっしー

管理栄養士

株式会社ヘルシーパス 企画開発部 / ブログ・ニュースレター・お問い合わせ担当

ドラッグストアと食品スーパーを展開する企業の販売促進室で管理栄養士&美容アドバイザーに従事。
健康と食をつなぐ情報の発信・社内教育・栄養相談会・美容接客を通じて、体内外へのアプローチを探求。
現在は、中高生3人の母として思春期の食事づくりに奮闘中。

多くの情報があふれる中、みなさまがご自身の健康とQOLの維持・向上のためにより良い「選択」をしていただけるよう、お役に立つ情報を発信していきたいと思っています。

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