布マスクや医療用マスク(不織布マスク)の感染予防効果

中島こうやクリニック 院長 中島孝哉

中島こうやクリニック院長 中島孝哉先生(以下、中島先生)は、日本抗加齢医学会認定医療施設の院長として予防医学に力を入れておられます。
感染症専門医でもあり、大学在籍中は「肝炎ウイルス」「HIV」「HTLV-I」などの血液由来ウイルスの感染対策に取り組んでおられました。

健康な人のマスクの着用に関して否定的であったアメリカのCDCも、4月3日に健康な国民にもマスクの着用を推奨すると発表し、すでに世界中でマスクの争奪戦が始まっています。
日本でも国民の全世帯に布マスクを2枚ずつ配布するという政策が発表されていますが、
今回は「布マスクや医療用マスク(不織布マスク)の感染症予防効果」について前回に続き、中島先生にインタビューをさせていただきましたのでご紹介します。

過去のインタビュー記事につきましては「中島こうやクリニックの感染症対策のご紹介」「医療機関だからできる使い捨てマスクの再利用」をご覧ください。


中島先生より

新型コロナウイルスの主な感染経路は飛沫感染接触感染で、
『飛沫感染防止にはマスクの着用』『接触感染防止には手洗い』が推奨されています。
新型コロナウイルス感染防止対策における3密※を避けるとは、飛沫感染と接触感染の防止に他なりません。
※3密:密閉・密集・密接の3要素の総称

飛沫とは、咳やくしゃみや会話で飛び散る水滴で、感染者のウイルスや細菌が含まれています。
飛沫のサイズは5μmより大きく、到達距離は2m以内と言われていますが、3m以上届くという報告もあります。

このような飛沫感染を防ぐために必須なのがマスクですが、
マスクの種類によって、飛沫、細菌、およびウイルスに対する防御効果は異なります。

◯医療用マスク

一般に医療現場で使われているサージカルマスクは不織布で作られており、細菌を含む3μmの粒子を捕集できる割合(BFE:細菌濾過効率)が95%以上のものを指します(日本での明確な基準はありません)。
ウイルスや3μm以下の細菌は通過しますが、飛沫のサイズは5μm以上ですので、飛沫は防ぐことができます。

◯布マスク

目が粗いため、小さな飛沫は防ぐことができません。
布マスクは素材によって効果が異なり、どれくらいの大きさの粒子を防ぐことができるかというデータはありませんが、布マスクをしてくしゃみをすると中に唾液や鼻水が付くことより、大きな飛沫は防ぐことができると思われます。

ボールで的を射抜くゲームがありますが、枠内に入る大きさのボールでも枠に当たると跳ね返されてしまいますし、ボールの大きさが枠よりも大きければ、枠内を通過することはできません。そのようなものだと理解しています。

◯N95マスク

0.3μmのNaCl結晶を捕集する割合が95%以上のものと規格され、メーカーによっては、0.1~0.3μmの粒子を95%防ぐと記載されています。
目の粗さだけでなく、静電気による吸着作用も効果に影響しているようです。
N95マスクは、細菌や0.1μm以上の大きさのウイルスを遮断することができますが、コロナウイルスの大きさは約0.1μmと言われていますので、N95マスクで完全に遮断できるかは微妙なところかもしれません。
ただし、遮断効果は、マスクと顔の間にすき間があると大幅に低下してしまいますので、自分の顔に合ったマスクを正しく付ける必要があります。

論文の紹介 医療用マスクと布マスクの効果の違いを検討したランダム化比較試験)

布マスクに果たして呼吸器感染防止効果があるのかどうか興味が持たれますが、医療用マスクと布マスクの効果の違いを検討したランダム化比較試験が報告されていますのでご紹介します。

感染リスクの高い病棟で働く1607名の医療従事者を,布マスク着用群と医療用マスク着用群とコントロール群(マスクを着用するかどうかとマスクの選択は自由)の3群に分け、4週間勤務した結果、どれだけ呼吸器感染が起こったかを検討した論文です。
<エンドポイント>
① 呼吸器症状(CRI)
② 38.0℃以上のインフルエンザ様症状(ILI)
③ PCR検査による17種のウイルス検査(Virus)

結果は、下記のグラフに示しますように、3つのエンドポイントすべてにおいて、布マスクが最も感染予防効果が低く、医療用マスクが最も高いという結果でした。
コントロールには、布マスク着用者と医療用マスク着用者が含まれますので、
それらを加えてワクチン・手洗いなどの影響因子を補正して布マスクと医療用マスクの効果を比較した結果、
布マスク着用群の症状出現リスクは、医療用マスク着用群に比べて、CRI 1.51倍、ILI 6.64倍、Virus 1.72倍で、ILIとVirusにおいて有意差が認められました

このように、医療従事者が感染者に接する場合、布マスクは医療用マスクに比べて、明らかに感染予防効果が劣ることが証明されており、医療従事者が医療用マスクを装着すべきなことは明らかです。

しかし、これをもって布マスクには効果がないと言い切ることはできません!

布マスクは、給食マスクとも言われており、自分の唾液が食事に飛び散らないために用いられてきました。
布マスクでも不織布タイプのキッチンペーパー※を入れるなど、工夫すれば周囲に飛沫を飛び散らすリスクを少しでも減らすことができます。
※キッチンペーパーの素材には不織布タイプとパルプタイプがあります

また、汚染された手で直接鼻や口に触れることを防ぐ効果もありますが、
正しい装着法を守らなければ逆効果にもなりかねませんので、特に小児や高齢者にはマスクを触れたり置いたりしないように十分指導しましょう。

まとめると、次のようになります。
1.布マスクは大きな飛沫を防ぐことができる。感染者が他人にうつさないために使用する。
2.医療用マスクは飛沫や細菌を防ぐことができる。
  医療や介護の現場で、医療従事者への感染、医療従事者からの感染を防ぐために使用する。
  医療従事者以外でも、感染者と接触する機会がある人が使用する。
3.N95マスクは飛沫、細菌、ウイルスを防ぐことができる。医療現場で感染者と濃厚接触する際に使用する。

マスクの供給が十分であれば、誰もが使い捨ての医療用マスクをつけた方が良いのは当然です。
しかし、世界でのマスクの供給には限りがあり、新型コロナウイルスの世界的な蔓延に伴い、医療現場でのマスク不足は逼迫した状態です。
リスクに応じて必要なところに適正にマスクが配分され、医療従事者がマスク不足のために布マスクのみをせざるをえないという事態だけは避けなければなりません。

(2020年4月5日 中島こうやクリニック 中島孝哉)

中島こうやクリニックの医療機関だからできる使い捨てマスクの再利用方法の記事もクリニックにおける感染症対策としてご一読ください。

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