全国各地で梅雨入りが発表され、蒸し暑さに悩まされる時期になりました。
こんな時期に心配なのが、「食中毒」。
放置していた食品が傷んでいた、などの経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、夏の時期に多い細菌による食中毒について、ご紹介いたします。
●食中毒は夏場に多いの?
(農林水産省 日本で食中毒にかかる人は年に何人?より引用)
平成28年の厚生労働省の統計によると、食中毒と診断された人のうち、約4割は細菌、約6割はウイルスが原因でした。
夏場は、湿度や気温が高く細菌が増えやすいため、統計を見ても細菌性の食中毒が多いことがわかります。
●食中毒に関する菌はどんなものがあるの?
主な原因細菌として挙げられるのは、以下の7種類です。
①サルモネラ属菌
②カンピロバクター
③腸炎ビブリオ
④腸管出血性大腸菌(O157、O111など)
⑤ウェルシュ菌
⑥黄色ブドウ球菌
⑦セレウス菌
●それぞれの菌の特徴は?
①サルモネラ属菌(感染型)
サルモネラ属菌は動物の腸管や河川、下水など自然界に広く分布している菌で、2500種類以上もの血清型があることがわかっており、中でもサルモネラ・エンテリティデイス(SE)という種類の菌は、数十個の菌数で食中毒を発症する可能性があるそうです
十分な加熱で死滅するため、食品を中心温度75℃、1分間以上加熱することで感染を予防することが出来ます
感染源としては、汚染された肉や卵を利用し、かつ加熱が不足するような食品(牛のタタキ、レバ刺し、玉子入りとろろ汁、ティラミスなど)が原因になりやすいと言われています。
②カンピロバクター(感染型)
カンピロバクターも動物の腸管内に存在しており、その糞に汚染された肉や水が原因で食中毒を引き起こします。
熱や乾燥に弱い為、食品を中心温度75℃、1分間以上加熱することで感染を予防することが出来ます
微好気性で、通常の酸素のある条件では増殖できず、常温の空気中では徐々に死滅するそうです。
少ない菌数(100個程度)でも発症し、加熱調理を行わない鶏さしやサラダ、もしくは飲料水なども感染源になります
③腸炎ビブリオ(感染型)
塩分を好む細菌で、「塩漬けにしたら安心」というイメージを裏切る菌です
原因食品は魚介類(刺身や寿司、魚介加工品)、二次汚染した漬物や塩辛などです。
海に生息し、室温でも速やか(他の細菌の2倍以上の速さ)に増殖すると言われています
真水、酸、熱に弱く、60℃ 10分間の加熱で死滅します。
④腸管出血性大腸菌(感染型)
比較的名前を聞くことも多い「O157」は、「下痢原性大腸菌」の中の「腸管出血性大腸菌」に分類されます。
腸管出血性大腸菌には、O157の他にO111やO26などがあり、それらの菌がベロ毒素(志賀毒素)と呼ばれる毒素を産生します
腸管出血性大腸菌に感染すると、ベロ毒素(志賀毒素)が体内で産生され、それが血管内に侵入することで血管壁を破壊し、出血を引き起こすと言われています。
毒素が腸だけでなく、腎臓や脳、神経にも作用することがあるので、重症化するリスクも高い食中毒です。
牛肉の生食(牛刺しやレバ刺し)だけでなく、二次汚染によりあらゆる食品が原因となります。
中心温度75℃で1分間加熱することで菌は死滅します。
⑤ウェルシュ菌(感染型)
「一晩寝かせたカレー」に潜んでいる可能性のある菌です
ウェルシュ菌は、ヒトや動物の腸管、土壌、水中など自然界に広く分布しています。
酸素を嫌うため、食品を大釜などで大量に加熱調理する時に鍋の中心が「無酸素状態」になることや、芽胞を形成することによる「耐熱性」から、鍋の中で生き残り、増殖することが分かっています。
食品の温度が50-55℃以下になると一気に増殖し、その大量の菌が腸管内で毒素(『エンテロトキシン』)を産生することで発症します
大鍋で作る、カレーやシチュー、スープ、めんつゆなどの料理が原因になることが多く、前日に大量に作ったものを室温で保管しているものはリスクが高いと言われています。
⑥黄色ブドウ球菌(毒素型)
「にぎりめし(手作り)が原因となる食中毒菌」です。
黄色ブドウ球菌は、健康なヒトの喉や鼻、毛髪にも存在し、動物の皮膚や腸管、埃の中にも存在しています。
「毒素型」と言うように、菌そのものより、菌が食品中で増殖するときに産生される『エンテロトキシン』という毒素が問題となります。
黄色ブドウ球菌自体は熱に弱いのですが、毒素は100℃30分の加熱でも分解されません。
町内会やお祭りなどで出された手作りのにぎりめしなどが感染源となり、集団感染を起こすことがある細菌です。
⑦セレウス菌(毒素型)
「作り置きのおやつや夕食」に潜んでいる可能性のある菌です
セレウス菌は土壌細菌の一つで、土壌や水、埃の中など自然環境に広く分布しています。
セレウス菌も毒素型の食中毒菌で、菌そのものより菌が産生する毒素が問題です。
セレウス菌はいくつか毒素を産生しますが、大きく「下痢型」と「嘔吐型」に分類されています。
「下痢型」は熱に弱く 56℃ 5分で分解されます。しかし、「嘔吐型」は126℃ 90分の加熱でも安定しています。
原因食品は、「下痢型」はお弁当やプリン、「嘔吐型」はチャーハンや焼きそば、スパゲティなどです。
セレウス菌で汚染された原料などで食事やお菓子を作り、それを室温で長時間保管したりすると菌が増殖する可能性があります
主な食中毒菌の特徴などをまとめた表です。
●食中毒を予防するには?
食中毒予防では、「付けない・増やさない・やっつける」が原則です
上記で説明した食中毒細菌のほとんどは、「衛生管理」や「温度管理」が間違っていた場合に、増殖したり、毒素を産生することが共通しています
特に湿度や温度が高くなってくるこれからの時期、室温で長時間調理済み食品や肉・魚などの食材を放置するのは避けましょう。
また、感染源として「ヒトの手や調理器具を介した二次汚染」も問題となります。
例えば、いくら75℃以上1分間を守って加熱調理しても、その後に菌に感染したものと接触したら、その食品は汚染されます
手洗いや調理器具の衛生の徹底、調理手順などに気を付け、二次汚染を防ぐようにしたいですね。
そして「自分自身の免疫力を上げる」ことも、予防法の一つだと思います。
病原性大腸菌などの食中毒菌に対してビフィズス菌や乳酸菌を摂取することが感染や重症化の予防に有効だと言われています 。
梅雨の時期、蒸し暑さなどで体調を崩す方もいるかもしれませんが、ぜひ「腸を元気に!」を意識して乗り切るようにして下さい
(あ)
農林水産省 日本で食中毒にかかる人は年に何人? (http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/statistics.html)
農林水産省 食中毒をおこす細菌・ウイルス・寄生虫 (http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/f_encyclopedia/index.html)
厚生労働省 細菌による食中毒 (http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/saikin.html)
一般社団法人東京都食品衛生協会 食中毒を起こす微生物 (http://www.toshoku.or.jp/eiseijigyo/arekore-shokutyudoku_sarumonera.html)
一般社団法人東京都食品衛生協会 食品衛生知っ得情報 (http://www.toshoku.or.jp/eiseijigyo/201607pdf/201608-04.pdf)
公益社団法人 日本薬学会 ベロ毒素と志賀毒素 (http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E3%83%99%E3%83%AD%E6%AF%92%E7%B4%A0%E3%81%A8%E5%BF%97%E8%B3%80%E6%AF%92%E7%B4%A0)
科学技術動向 ビフィズス菌によるO157感染予防のメカニズム
農研機構 乳酸菌の生産する抗菌ペプチドの利用 (http://www.naro.affrc.go.jp/archive/nfri/seikatenji/files/2009_P57.pdf)