先日のブログでも紹介しましたが、精神障害には食事(栄養)の質が大きく影響していると言われております。
今回は、6種類のビタミンと10種類のミネラルの血中濃度を調べ、精神障害との関連を系統的に見直した、という研究論文をご紹介いたします。
●初期の精神障害者はビタミンD、葉酸、ビタミンCの血中濃度が有意に低い
【調査方法】
・28論文のデータを再評価
【被験者】
・初回エピソード精神障害(First episode psychosis:FEP)患者:1221人
・対象被験者(非精神障害者):1391人
【調査内容】
・初回エピソード精神障害患者(以下FEP)と非精神障害者との比較調査
・初期の精神障害状態での栄養状態の評価
・栄養状態と精神障害症状の相関
【結果】
ビタミンD、葉酸、ビタミンCを含む栄養素の血中濃度低値が、初期の精神障害と関連している
今回の研究では、その他のビタミン、ミネラルについては大きな相違は見られなかったそうです。
現在までの研究から、長期にわたる精神障害患者には栄養素の欠乏が見られることが報告されています。
例)
・統合失調症の長期罹患患者:ビタミンE、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、亜鉛、セレンなどの血中濃度低下が見られる。
しかし今回は、初期の精神障害患者の栄養状態を調べた初めての研究で、精神障害治療前から栄養状態の不足がある可能性を示しています。
●若年層の栄養素欠乏と精神健康
今回の調査結果の一つとして、ビタミンDの血中濃度が低いほど、より重篤な症状と関連する可能性が示唆されました。
しかし、対照群である非精神障害者の中でもビタミンDの血中濃度の低値がみられ、イギリスでは若者の20-40%にその傾向がみられたという報告もあります。
ビタミンDの働きとしては、主にカルシウムとリンの吸収を促進し、骨をつくり、丈夫にすることが知られていますが、近年、細胞の増殖や分化にも深く関わっていることがわかってきたことから、代謝および神経の健康に不可欠な栄養素であると言われています。
先日発表された論文では、出生時に血中ビタミンD濃度(25(OH)D3)が低い新生児は自閉症のリスクが上がることが報告されています。(論文要旨)
現在までのところ、小児を対象とした研究ではビタミンDサプリメントが統合失調症の発症リスクを低下させることも示唆されています
さらに、FEP患者にみられた栄養欠乏として、非精神障害者と比較して有意に低い血清葉酸値であったことも報告されています。
ただし、葉酸欠乏は全世界のすべての栄養欠乏症の中で最も広く見られる栄養素欠乏症でもあります。
葉酸の欠乏は、知的発達や神経の機能維持などに悪影響を及ぼし、ホモシステインが代謝されないことなどで死亡リスクの上昇に繋がると言われています
日本でも、葉酸やビタミンCは若い世代(10-20歳代)の女性での不足が見られ、ビタミンCは男女とも10-40歳代の幅広い世代で推奨量を満たしていません。
ビタミンD、葉酸、ビタミンCの欠乏症状と目安量、主に含まれる食品をご紹介いたします。
栄養素が不足することで起きる症状の多くは「不定愁訴」と呼ばれ、身体的な症状の他、精神的な落ち込みに繋がるような症状もあります
毎日バランスよく食べるのは、なかなか難しいと思います。
しかし、ビタミンやミネラルをはじめとした栄養素は「1日不足したから欠乏になる」のではなく、「慢性的に不足すること」で欠乏症状があらわれます。
1日単位でなく、3日単位や1週間単位、などで栄養バランスを考えるようにし、少しずつでも不足しがちな栄養素を摂取するようにすることが、身体だけでなくこころの健康維持に繋がるかもしれませんね
(管理栄養士 あ)
EurekAlert! Nutrition may play a key role in early psychosis treatment: New research
MPRC Nutritional Deficiencies and Clinical Correlates in First-Episode Psychosis: A Systematic Review and Meta-analysis
WHO 統合失調症
厚生労働省 みんなのメンタルヘルス 統合失調症
日本人の食事摂取基準2015 概要
MSDマニュアル(プロフェッショナル版) ビタミンD
MSDマニュアル(プロフェッショナル版) 葉酸