成長や健康維持の為に不可欠な脂肪酸のうち、体内で合成できない脂肪酸を必須脂肪酸といい、食事から摂る必要があります。
n-3系脂肪酸のαリノレン酸、n-6系脂肪酸のリノール酸、アラキドン酸の3つが必須脂肪酸です。
他に主な脂肪酸として、n-3系脂肪酸はDHAやEPA、n-6系脂肪酸にはγリノレン酸などがあります。
最近はn-3系脂肪酸の摂取を推奨することが多い一方で、n-6系脂肪酸の摂りすぎへの注意喚起なども耳にするようになり、「n-6系脂肪酸は摂らない方がいいの?」というお問合せもいただきます
そこで今回は、『n-6系脂肪酸って摂った方が良いの?悪いの?』をテーマにn-6系脂肪酸の働きや摂り方についてご紹介いたします
●n-6系脂肪酸はどんなものに含まれているの
まず、基本的な情報として、n-6系脂肪酸(リノール酸、γリノレン酸、アラキドン酸)がどのような食品に多く含まれているかをご紹介します。
【表:n-6系脂肪酸の主な種類と多く含まれる食品】
上記の表のように、
リノール酸やアラキドン酸は比較的日常的に摂取する食品にも含まれており、さらにリノール酸は、揚げ物・洋菓子類・菓子パン・ラーメン・カレー等の加工食品に使われる、「見えない油」と呼ばれる植物油や植物油脂類に含まれていることも多く、意識せずに過剰に摂っている危険性があると言われています。
反対に、γリノレン酸は普段あまり口にしない食品に含まれており、意識して摂取しないと多く摂ることはありません
●n-6系脂肪酸の評価について
日本植物油協会の調べでは、日本人が摂取するn-6系脂肪酸のほとんどはリノール酸だそうです
リノール酸はコレステロールを下げる効果があることなどから、積極的な摂取を推奨された時期があります。
そのためリノール酸が配合されていることを強調した商品や広告が増え、その結果として逆に過剰摂取を懸念する評価が出てくるようになりました。
例として、リノール酸の大量摂取は善玉コレステロールをも低下させるというものや、リノール酸の代謝物であるアラキドン酸が炎症を引き起こすエイコサノイドを産生し、がんの発生に結びつく可能性がある、という観察や動物実験結果などがあり、リノール酸の評価を悪化させることとなりました。
この評価により『n-6系脂肪酸の摂りすぎは体内で炎症を引き起こすのでは』と言われるようになったのだと思います
ただ、この否定的な評価の多くは実験動物に大量に給餌した場合に見られる現象で、例えば炎症を引き起こすエイコサノイドの発現は、体重当たり12%以上(人間でいえば60㎏の体重で7.2㎏ )のリノール酸を与えた場合とされています。
日本人のリノール酸摂取は、エネルギー比で6~7%(2000kcalで13-15g)程度ですから、大量摂取には程遠く、炎症を引き起こす物質の産生を懸念する必要はない状態にあると言われています
また、同時に抗炎症性物質も産生することで、両方の作用が打ち消されることも観察されています
同じn-6系脂肪酸であるγリノレン酸は積極的な摂取で動脈でのプロスタサイクリン産生を高める効果が認められ、リノール酸と比較し血液凝固や血管収縮を抑え、動脈硬化の予防に効果が期待できると言われています。
(月見草)(カシス種子)
さらに、優れた降コレステロール作用を期待できる実験結果や、関節リウマチ、湿疹や皮膚疾患、糖尿病神経症、PMS(月経前症候群)などの症状が軽減されたデータもあり、摂取することでの健康効果が期待されています。
元々、n-6系脂肪酸は動脈硬化や血栓を防ぎ、血圧を下げるほか、LDLコレステロールを減らすなど、さまざまな作用を持っています。
また不足することで皮膚炎や皮膚の萎縮などの皮膚症状が現れたり、免疫力が低下することがあると言われています。
n-6系脂肪酸は適切な量を摂取することが大切で、摂りすぎに注意すれば、様々な効果が期待できる脂肪酸と言えます。
●大切なのは「脂肪酸摂取量のバランス」です
すべての植物油はいずれかの脂肪酸だけでできているわけではなく、様々な脂肪酸が含まれ、それぞれが協調して相乗的効果を発揮していると考えられます。
飽和脂肪酸、リノール酸、オレイン酸、α-リノレン酸だけを単独に摂取することはできませんので、これらの脂肪酸をバランスよく摂取することで効果が上がり、同時にそれぞれの欠陥を補っていると考えるべきです
脂肪酸の種類と摂取量については、以下の表の通りです。
【表:日本人の脂肪酸摂取状況 推計】
(「国民健康・栄養調査」による食品摂取実態に基づき、日本植物油協会で推計)
日本人が平均的に最も多く摂取している脂肪酸は一価不飽和脂肪酸(主にオレイン酸)で、次いで飽和脂肪酸、n-6系脂肪酸(主にリノール酸)、n-3系脂肪酸(主にα-リノレン酸、EPA、DHA)の順になっています
この表は推計ではありますが、それでもn-6系脂肪酸が近年になって急激に増えてきたということはないようです
また、n-6系脂肪酸:n-3系脂肪酸の比率は【4~6:1】が良いとされていますが、ほぼそのバランスで摂れていることもわかります。
ただし、食事摂取の形態が外食や中食、加工食品などの利用が多いと、上記の表よりもリノール酸を多く摂取している可能性があり、過剰摂取が心配されます。
包装された食品を購入する際には、原材料名を見るように意識し、「植物油脂」や「マーガリン」などが使われている場合は「見えない油」としてリノール酸が含まれていると考えておきましょう
そういった「見えない油」でのリノール酸摂取を減らす意識をするとともに、γリノレン酸の摂取を意識することで、リノール酸とは異なる健康への効果を期待することもできます。
なんでも「バランス」とは言いますが、脂肪酸摂取にもバランスが必要ということですね
健康効果があるものでも、いつも同じ油を使うのではなく、違う油などを取り入れることでバランスよく、飽きずに摂ることができると思います
ぜひ、参考にしてみて下さい
(あ)
<参考>
・KAKEN 科学研究費助成事業データベース
・NII学術情報ナビゲータ[サイニィ]
・消費者庁 脂質と脂肪酸のはなし
・一般社団法人 日本植物油協会 脂肪酸の働き
・全国健康保険協会 広島支部 【1月号】油の種類や働きを知ろう
・特定非営利活動法人 性差医療情報ネットワーク リノール酸の多い食品とは
・株式会社大塚製薬工場 栄養管理と脂肪
・PubMed 米国国立医学図書館 γリノレン酸は乾燥肌や軽度アトピー被験者の皮膚バリアを改善する
・PubMed 米国国立医学図書館 γリノレン酸のリバウンドの抑制作用
・最近の シ ョー トニ ングの脂肪酸組成及び物性 について
・論文 γ-リノ レン酸の生理的効果と糸状菌による生産
・農林水産省 脂質による健康影響
・栄養の基本がわかる図解事典 成美堂出版