女性が妊娠するとインスリン抵抗性を生じやすくなるため、妊娠糖尿病を発症することがあります
妊娠糖尿病は「妊娠中に発見または発症した糖尿病ほどではない軽い糖代謝異常」であり、産後には血糖が正常化することが多いですが、妊娠糖尿病を患った人はその後の糖尿病になりやすいことが分かっています
今回は、「妊娠糖尿病後の糖尿病リスク低下」について調べている論文をご紹介いたします
●母乳育児は母体の糖尿病リスクを下げる
「3か月間以上母乳育児をすることで代謝が調節され、妊娠糖尿病の女性の産後の糖尿病リスクを下げる可能性がある」という内容の、ドイツにあるヘルムホルツ協会の研究センターの研究者らによる報告です
【目的】
母乳育児は子供の健康にとって有益であると考えられているが、母親の健康にとっても良い点があることを示す証拠が増えてきている。
例えば最近では、3か月間以上授乳をするとその後の糖尿病のリスクが低下し、その効果は出産後最大で15年間続くことが明らかになった。
しかし、この効果についてのメカニズムは分かっていない。
そこで、3か月以上母乳育児をすることで代謝調整がどのように変化して母体に影響をあたえるのかを、メタボローム解析(代謝物の濃度および細胞内流量の測定)を行って調べる。
【対象】
妊娠中に妊娠糖尿病と診断された197名の女性
【方法】
追跡期間の短い試験(PINGUN)と追跡期間の長い試験(POGO)の2つのコホート研究。
参加者はグルコース負荷試験(OGTT)によって耐糖能を調べ、OGTT中に採血してメタボローム解析を行った。
母乳育児期間や母親の教育レベルなどはインタビューやアンケートによって調査し、年齢やBMIは産科記録から得た。
【結果】
・産後BMI、肥満の有病率、教育レベルは2つの試験で差がなかった。
・長期間追跡した試験の女性の方が有意に年齢が高く、3か月以上母乳育児し、妊娠中にインスリン治療していた割合が低かった。
・3か月以上の母乳育児はインスリン感受性やインスリン抵抗性とは関連がなかった。
・3か月以上母乳育児していた女性は有意にOGTT30分における総リゾホスファチジルコリン/総ホスファチジルコリン比が高く、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、ロイシンの濃度が低かった。
・メタボローム解析の結果、3か月以上母乳育児していた女性はリゾホスファチジルコリンの濃度が高く、ジアシルホスファチジルコリン濃度が低く、グリセロリン脂質の小さな集団の中でこれらが関連していた。
【まとめ】
母乳育児によって糖尿病に関わる代謝が調節されるため、3か月間以上母乳育児をすることで産後の糖尿病リスクを下げる可能性がある。
<論文要旨>
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00125-016-4055-8
リゾホスファチジルコリンとは生理活性脂質として細胞間(あるいは膜間)のシグナリング分子として機能し、生体内で重要な役割を持つリゾリン脂質のひとつであり、2型糖尿病を患うと血液中の濃度が低くなることが分かっています。
また、血液中のBCAA濃度に関しても2型糖尿病と関連し、インスリン感受性が低下した肥満や2型糖尿病の状態ではBCAA 濃度が有意に上昇することが分かっています。
母乳育児によって、上記のような代謝が調節されて糖尿病リスクを低下させるなんて驚きですね
なお、糖尿病リスク低下以外の母乳育児によるメリットには以下のようなことが挙げられます
<お母さんのメリット>
・オキシトシンによって産後の子宮回復を早めたり、ストレス反応を和らげる
・産後のダイエット効果
・閉経前の乳がん、卵巣がん、子宮体がんの減少
・骨粗鬆症の予防効果
<赤ちゃんのメリット>
・気管支炎、下痢、中耳炎などの感染症にかかりにくくなる
・生活習慣病、アレルギーなどの予防効果
・小児がんの発症率の低下
<その他のメリット>
・手軽に授乳できる
・経済的
・災害時など緊急事態でも授乳が可能
何らかの理由で母乳育児を断念される方もいらっしゃるかとは思いますが、子供のためにも自分のためにも可能な範囲で母乳育児をすることがお勧めです
(さ)
<参考>
・リンク・デ・ダイエット(http://www.nutritio.net/linkdediet/news/FMPro?-db=NEWS.fp5&-Format=detail_news.htm&kibanID=55660&-lay=lay&-Find)
・国立成育医療研究センター サイト
・https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/perinatal/bosei/bosei-jsdp.html
・国立研究開発法人 科学技術振興機構サイト(http://www.jst.go.jp/kisoken/presto/complete/metabolism/report/pdf/0101aoki.pdf)
・臨床化学 Vol. 36 (2007) No. 1 p. 49-60
・ネスレ栄養科学会議サイト(http://www.nncj.nestle.co.jp/asset-library/documents/12-%E4%B8%8B%E6%9D%91.pdf)
・慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト(http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000643.html)