赤ちゃんの栄養補給源として母乳が推奨されています
しかし、母乳不足や母親の健康状態などのために粉ミルクを利用している方も少なくありません
最近の粉ミルクは製造の技術が進み、母乳の成分に近い栄養価になっていますが、母乳と全く同じという訳ではありません
今回は「粉ミルクにはビオチンが少ない」という点に注目してまとめます
●ビオチンとは?
ビオチンはビタミンB群の仲間であり、ビタミンB7やビタミンHとも呼ばれます。
腸内細菌によっても合成される栄養素ですが、人によっては腸内細菌の合成量だけでは必要量を維持できないため、食事からの摂取も重要だと言われています
ビオチンが多く含まれる食材は、レバー、卵黄、魚介類、落花生などの種実類などであり、野菜や果物にはあまり豊富に含まれていません
人の体の中では糖やアミノ酸の代謝をつかさどるカルボキシラーゼという酵素の働きを助ける役割(補酵素)をしており、糖新生や分岐鎖アミノ酸、脂肪酸合成、エネルギー代謝などに関わっています
そして、ビオチンの不足によって皮膚炎、食欲不振、うつ症状、筋肉痛、結膜炎、抜け毛、知覚過敏など様々な症状が起こることが知られています
また、乳児では腸管が未発達のためにビオチンの産生や吸収が少なくなり、不足することがあると言われています
<ビオチン>
●粉ミルクとビオチン
粉ミルクの基本となる成分と分量は健康増進法の中の「乳児用調製粉乳たる表示の許可基準」で定められています。
栄養成分はその基準値を満たす必要がありますが、ビオチンについては基準が設けられていません
また、2014年6月までは粉ミルクにはビオチンを添加することが認められておらず、添加が認められた今でも粉ミルクにビオチンがほとんど含まれていないものが多くあります。
そのため、粉ミルク(特に治療用の特殊な粉ミルクなど)を栄養補給源としていた乳児においてビオチン欠乏による皮膚炎などの発症が報告されています
ビオチン欠乏による皮膚炎はアトピー性皮膚炎と似ていますが、特徴として顔面(特にまぶたや口唇周囲)や外陰部の皮膚炎と脱毛が挙げられ、しっかりと鑑別することが大切だと言われています
ちなみに、FAO/WHO国際規格では粉ミルク100kcalにつきビオチン1.5μg以上が推奨されていますが、日本の粉ミルクは一般的もので100kalあたり1.0μg、治療用特殊調製粉乳で0.4μg、アミノ酸乳で0.1μg未満程度とのことです。
ビオチン欠乏は赤ちゃんだけの問題ではありません。
例えば、卵白を多量に長期間にわたって摂った人はビオチン欠乏症になってしまう可能性があります
それは卵白に含まれているアビジンというタンパク質がビオチンと強く結合し、消化管でのビオチンの吸収を邪魔するためです
卵かけご飯の食べ過ぎには要注意ですね
「粉ミルクが栄養の補給源となっている赤ちゃん」や「卵かけご飯を毎日のように食べている方」で皮膚炎や脱毛(薄毛)に悩んでいる場合には、ビオチンが不足していることが考えられます。
大人の場合には、まずは食生活を見直し、ビオチンを多く含む食材を意識して摂ってみる(離乳食に取り入れてみる)のがお勧めです
※皮膚炎や脱毛(薄毛)などの原因はビオチン不足以外も考えられるため、症状がなかなか改善しない場合には必ず医師にご相談ください。
(さ)
<参考>
・日本ビタミン学会誌 Vol.86 No.12 2012 678-684
・独立行政法人 国立病院機構サイト
・https://www.hosp.go.jp/~ommedc/section/cnt0_000095.html
・http://www.hosp.go.jp/~kyotolan/html/guide/medicalinfo/nicu/skinship_6a.html
・森永乳業サイト (http://www.hagukumi.ne.jp/products/specialmilk/biotin.shtml)
・国立健康・栄養研究所サイト(http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail180.html)
・日本小児アレルギー学会サイト(http://www.jspaci.jp/modules/membership/index.php?page=article&storyid=45)
・イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版
・厚生労働省サイト(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000048710.pdf)
・日本小児アレルギー学会サイト(http://www.jspaci.jp/modules/membership/index.php?page=article&storyid=45)
・社会福祉法事 恩賜財団母子愛育会サイト(http://www.boshiaiikukai.jp/img/milk/shiyou-chuui.pdf)