人が生きていく上で必要な必須脂肪酸(脂質)には、オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸があり、これらはバランス良く摂らなければなりません:bulb::bulb:
特に脳の構成成分は脂質の割合が多く、妊娠中の女性の脂質摂取は胎児の脳形成に影響を与えると言われています
今回は、「妊娠中の女性の魚摂取と子供の脳形成」について調べている論文を見つけましたので、その内容を簡単にご紹介します
●妊婦が魚を食べると子供の脳形成に良い影響を与える
「妊娠中の女性が魚の摂取量を増やすと胎児の脳の健康に良い影響を与えるようだ」という内容の東北大学の研究者らによる報告です
【目的】
脳神経の形成は胎児期にほぼ完了するため、オメガ(ω)6系およびω3系脂肪酸のバランスがとれた食事を妊婦が摂ることは、胎児の正常な脳の発達に必要であると考えられている。
また、食事から摂るω6系、ω3系脂肪酸の理想的なバランスは、1~4:1だと言われているが、多くの先進国や途上国ではリノール酸(ω6)が豊富な植物油を多く取り、ω3系脂肪酸が豊富な魚などをあまり食べていないため、ω6系とω3系脂肪酸の摂取割合は15:1にも上ると言われている
そこで、現代の私たちの食事と同様に、ω6系脂肪酸が豊富でω3系脂肪酸が少ない食餌を妊娠中のマウスに与え、産まれてくる子供への脳の影響を調べる。
【方法】
妊娠中のマウスを2つのグループに分け、それぞれに脂肪エネルギー比率が16%で脂肪酸組成の異なる食事を妊娠中と産後10日間与えた。
・コントロール食 → リノール酸(ω6) 3.1% :α-リノレン酸(ω3) 1.2%
・ω6系脂肪酸豊富食 (ω6食)→ リノール酸 11.8%:α-リノレン酸 0.3%
生後10日以降は普通の餌で飼育し、成体になってから行動調査を行った。
【結果】
≪ω6食を食べた母から産まれた仔マウスの結果≫
・胎生期14.5日と産後10日における胎仔(乳仔)の脳の脂肪酸割合は、総ω3系脂肪酸、DHA(ω3)が有意に少なく、総ω6系脂肪酸、アラキドン酸(ω6)とドコサペンタエン酸(ω6)が有意に多かった。
・吻側大脳新皮質の厚さが有意に薄くなっていた。
・生体になった後、不安行動が増加した。
【まとめ】
妊娠中の母親が摂るω6系とω3系脂肪酸のバランスが悪いと、子供の脳内の脂肪酸バランスがくずれて脳形成に影響を与え、成長後にも影響する可能性がある。
<論文要旨>
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/stem.2246/abstract;jsessionid=AD4221BF48338F64E578270273BA242A.f02t04
これはまさに「胎児期(さらには胎児になる前の胎芽期)や乳児期の環境因子が、成長後の健康や様々な疾患の発症リスクに影響を及ぼす」というDOHaD(ドハド)ですね
DOHaDについては以前まとめたことがあるので、是非参考にしてみてください胎児・乳児の栄養と疾患の起源(DOHaD)
この論文ではω3系脂肪酸の中でもα-リノレン酸を用いていますが、α-リノレン酸は体内で一部がEPAやDHAに変換されて使われます
脳内のω3系脂肪酸のほとんどはDHAであるため、DHAを多く含む魚(魚油)を摂った方が脳の栄養素補給としては効率的かもしれません
しかし、魚の中でも大型魚(クジラやマグロなど)や海底付近で暮らしている魚(キンメダイやクロムツなど)は水銀が多く含まれているため、妊婦さんの食べ過ぎには注意が必要です
ω3系脂肪酸の補給には、イワシやアジ、サンマなどの小型の青魚や亜麻仁油、しそ油(えごま油)などがお勧めです
また、オメガ3系脂肪酸はとても酸化されやすい油であるため、油の酸化を防ぐビタミンEやベータカロテンなどの抗酸化作用のある栄養素を一緒に摂ると良いですよ
ビタミンEはアーモンドや落花生に、ベータカロテンは緑黄色野菜や海藻類に豊富に含まれています
(さ)
<参考>
・リンク・デ・ダイエット 世界の最新健康・栄養ニュース(http://www.nutritio.net/linkdediet/news/FMPro?-db=NEWS.fp5&-Format=detail.htm&kibanID=52843&-lay=lay&-Find)
・J Nutrigenet Nutrigenomics. 2011;4(2):65-8.
・理化学研究所 脳科学総合研究センターのサイト(http://www.brain.riken.go.jp/jp/aware/neurons.html)
・厚生労働省のサイト(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/index-a.pdf)
・日本食品標準成分表2015年版(7訂)