最近、低炭水化物食が流行っているので、食事でご飯やパン、麺類、いも類などの炭水化物が多い食品を減らして(または摂らないようにして)、タンパク質や脂質の量を増やしている方がいらっしゃいますね
確かに炭水化物(糖質)は血糖値を上げるので食べ過ぎはよくありませんが、体に必要な栄養素でもあります
また、タンパク質や脂質を摂る量が増えることによって体に悪影響を与えることがあります
今回は「高脂肪食が及ぼす脳への影響」について調べている論文を発見したので、その論文をご紹介します
●高脂肪食は脳の機能を低下させる
「高脂肪食が原因で肥満になると、脳内の免疫細胞の動きがなくなり、ニューロン間の接続を壊し始めるようだ」という内容の、アメリカのジョージア医科大学からの報告です
【目的】
高脂肪食は肥満を引き起こすだけでなく、脳のシナプスを破壊するミクログリアを活性化することが分かっている。
また、肥満になると加齢性の認知機能低下リスクが増加し、さらに炎症を引き起こすと考えられている。
これまでの肥満のマウスやラットを使った実験から、脳の学習と記憶の中心である海馬の機能障害は、ミクログリアの活性化が関係していることが分かっているが、肥満によってニューロンのシナプスやミクログリアがどのように変化するのかは調べられていない。
そこで、高脂肪食で肥満になることでミクログリアやシナプスなどにどのような変化が起こるのかを調べる。
※ミクログリアとは
小膠細胞(しょうこうさいぼう)とも呼ばれる、脳に存在する食細胞のこと。
侵入してきた細菌から脳を守ったり、神経に栄養を届けるが、一方で神経を傷つける物質(炎症性サイトカイン、活性酸素、一酸化窒素、興奮性アミノ酸など)も作り出し、シナプスを破壊して再構築する働きもある。
※ニューロンとは
神経細胞とも言い、脳を構成する主役な細胞。
ひとつ神経細胞からは、長い「軸索」と、木の枝のように複雑に分岐した短い「樹状突起」が伸びており、これらの突起は別の神経細胞とつながり合い、複雑なネットワーク(神経回路)を作っている。
※シナプスとは
ニューロン間で形成される構造の中で、ニューロン同士が情報を伝え合う時に神経伝達物質の放出と受け取りを行う場部分のこと。
【方法】
マウスに低脂肪食と高脂肪食を3か月間与えた。
その後、高脂肪食を与えたマウスを2群に分け、ひとつの群には高脂肪食を(H/H)、もう一つの群には低脂肪食を(H/L)、もともと低脂肪食を食べていたマウスは引き続き低脂肪食を(L/L)2か月間与えた。
なお、ヒトが食べるファーストフードと健康的な食事に合わせ、高脂肪食は食事のエネルギーの60%を飽和脂肪酸に、低脂肪食は10%を飽和脂肪酸にして、その他のタンパク質などの主要な栄養成分は同量にした。
4週、8週、12週で体重や食事の摂取量、インスリン値、血糖値などの他、海馬のシナプスのマーカー(シナプス数に相関する)などを測定した。
【結果】
・4週間目では高脂肪食も低脂肪食もどちらのマウスもほとんど変化はなかった。
・8週目では高脂肪食のマウスは太ったが、それ以外の血液やシナプスマーカーなどには変化がなかった。
・12週目には高脂肪食のマウスは肥満になり、ミクログリアが活性化し、炎症性サイトカインの値が増加し、シナプス数や機能が減少し、記憶機能が障害された。
・高脂肪食から低脂肪食に切り替えた(H/L)マウスは体重がもどるのに2か月かかり、体脂肪は標準よりも多いままだったが、記憶機能が改善した。
・ずっと高脂肪食の(H/H)マウスのシナプス数は減り続けた。
【まとめ】
高脂肪食によって肥満になるとミクログリアによってシナプスが破壊され、海馬の機能は障害を受けるが、その障害は可逆的であると考えられる。
<論文要旨>
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26336035
ミクログリアはニューロンの機能と健康維持に役立つ細胞です。
しかし、マウスが肥満になると、通常なら常に動き回り掃除するミクログリアが動かなくなってシナプスを食べ始め、この時マウスは、効果的に学習できないそうです。
この論文の全文を読むことはできませんでしたが、高脂肪食で肥満になることは生活習慣病だけでなく認知機能にも影響を与えることになりそうですね。
ちなみに、高脂肪食マウスは食事の摂取量が少なく、実際には低脂肪食マウスと同じカロリーの食事を摂っていたそうです。
今までは食事の摂取量(カロリー)が注目されることが多かったですが、これからはカロリーよりも何を食べるのかという食事の内容を気にした方が良さそうですね。
何事もバランスですね
(さ)
<参考>
・リンク・デ・ダイエット 世界の最新健康・栄養ニュース(http://www.nutritio.net/linkdediet/news/FMPro?-db=NEWS.fp5&-Format=detail.htm&kibanID=52363&-lay=lay&-Find)
・CABIのHP(http://www.cabi.org/nutrition/news/24713)
・https://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/54/12/54_1119/_pdf
・一目でわかる 免疫学 第4版(メディカル・サイエンス・インターナショナル)
・RIKEN BRAIN SCIENCE INSTITUTE(http://www.brain.riken.go.jp/jp/aware/neurons.html)