【論文紹介】脂質の種類と腸内細菌との関係


青魚由来の魚油にはオメガ3系脂肪酸であるEPAやDHAが豊富に含まれており、「血液サラサラ作用」「抗炎症作用」「ダイエット作用」など様々な有効性が期待されているので、青魚を積極的に食べたりサプリメントなどで補っている方もいらっしゃいますねbulb

また、最近では腸内環境や腸内細菌について注目が集まっていますeyes

今回は、脂質の種類と腸内細菌との関係について調べている論文を発見しましたので、その内容を簡単にご紹介しますblush

●脂質の種類と腸内細菌との関係
魚油が豊富な食事と豚脂(ラード)が豊富な食事では、マウスの腸内細菌に与える影響に大きな違いが現れるようだ、という内容の研究報告ですサゲサゲ↓

【目的】
ラードのような飽和脂肪酸が豊富な食事は白色脂肪細胞の炎症や代謝性疾患の増加に関係しているが、魚油などの多価不飽和脂肪酸が豊富な食事は炎症を抑え、体重減少を促すなど健康的な油であると言われている。
また、食べ物は腸内細菌に影響を与え、腸内細菌叢が変化することでヒトの体に影響を与えることがある。

そこで、食事由来の脂質によって引き起こされる白色脂肪細胞の炎症と腸内細菌の炎症への関わりについて調べる。

【方法】
以下のように「魚油が豊富な食事(魚油食)」と「ラードが豊富な食事(ラード食)」をマウスに摂食させ、各種代謝マーカーなどの変化を調べた。

①同じカロリーで脂質の組成のみが異なる魚油食またはラード食を11週間与える。

②Toll様受容体(TLR)のアダプター分子で炎症促進性応答を引き起こすミエロイド分化マーカー(MyD88)またはTRIFが欠損したマウスに11週間魚油食またはラード食を与える。
※Toll様受容体とは…
自然免疫においてウイルス・細菌の構成成分を認識し、インターフェロン(IFN)や炎症性サイトカン産生の誘導、樹状細胞の成熟化を介してリンパ球に感染防御のシグナルを伝達する受容体。
※TRIFとは…
Ⅰ型インターフェロン産生を引き起こすインターフェロンβ誘導性Toll-IL-1受容体(TIR)ドメイン含有アダプター。

③腸内細菌がいるマウス(有菌マウス)と腸内細菌がいないマウス(無菌マウス)に11週間魚油食またはラード食を与える。

④11週間魚油食またはラード食を与えたマウスの腸内細菌(糞便)をそれぞれ、抗生物質を投与した別のマウスに移してそのマウスを3週間ラード食で飼育する。

【まとめ】
同じカロリーの食事でも、飽和脂肪酸が多いラード食よりも不飽和脂肪酸の多い魚油食の方が肥満が抑えられ、脂肪細胞のサイズも小さく、腸内細菌についてはラード食マウスでは炎症を起こすビロフィラ属の細菌が増殖したが、魚油食マウスでは体重増加を抑えグルコース代謝を改善するアッカーマンシアが増殖した。

また、ラード食による白色脂肪細胞の炎症には腸内細菌が直接関わっているのではなく、腸内細菌が分泌する炎症促進分子によって引き起こされている可能性がある。

そして、糞便移植によって魚油を食べたマウスの腸内細菌がラードを食べたマウスの健康を改善することも分かり、腸内細菌は独立して肥満や炎症に影響を与えている可能性がある。

【結果】

●ラード食のマウスは魚油食のマウスと比べて
体重が増加した。
エサの摂取量が多かった。
飼料効率(食べたエサの一定量について体重がどれだけ増加したか)が高かった。
・呼吸商(RQ)が低く、脂質の利用が増加していた。
・空腹時のインスリンやグルコースの血中濃度が高く、インスリン感受性が低下していた。

●ラード食マウスの腸内細菌はバクテロイデス(Bacteroides)、ツリチバクター(Turicibacter)、ビロフィラ(Bilophila)が増えており、魚油食マウスではアッカーマンシア(Akkermansia)や乳酸菌(Lactobacillus)が増加していた。


魚油食を与えたマウスでは遺伝子型に関係なく体重が減少し脂肪細胞が小さくなった。

魚油食を与えたMyD88欠損マウスでは肥満が抑えられ、脂肪細胞が減少した。

TRIF欠損マウスではラード食を与えた場合でも体重や脂肪細胞のサイズに影響はなかった

白色脂肪細胞中のマクロファージの集積(CLS)と白色脂肪細胞中の白血球の数は、ラード食を与えた野生種のマウスで劇的に増加したが、ラード食を与えたMyD88欠損マウスとTRIF欠損マウスでは有意に少なかった

ラード食を与えたMyD88欠損マウスとTRIF欠損マウスでは空腹時のインスリンレベルが低く、インスリン感受性が改善していた。

●野生種のマウスと比べてMyD88欠損マウスとTRIF欠損マウスでは白色脂肪細胞中のCCケモカインリガンド(CCL)2遺伝子発現が有意に少なかった
※CCケモカインリガンドとは…
Gタンパク質共役受容体を介してその作用を発現するサイトカインに結合する物質で、炎症のマーカーとなる。


無菌ラード食マウスは無菌魚油食マウスよりも有意に体重が増加した。

無菌マウスは有菌マウスよりも体重増加が少なかった

CLSと白色脂肪細胞中の白血球のレベルは、無菌、有菌に関わらずラード食で顕著に増加し、CLSは有菌マウスで多く、白血球レベルも有菌マウスで高い傾向にあった。

●無菌でも有菌でもラード食を与えられたマウスは白色脂肪細胞中のCCL2遺伝子の発現が多いが、この結果は体重や脂肪細胞の大きさとは関係なかった。

ラード食を与えられた有菌マウスでは有意に白色脂肪細胞中のCCL2遺伝子の発現量と分泌量が多く、同様に白色脂肪細胞とマクロファージにおけるTnf-α遺伝子の発現量も多かった
※Tnf-αとは…
腫瘍壊死因子αとも言い、主に活性化したマクロファージが放出する炎症性サイトカインのこと。
インスリンの感受性を低下させると言われている。


魚油食マウスの腸内細菌を移植されたマウスは、ラード食マウスの腸内細菌を移植されたマウスよりも体重増加が少なかった

ラード食の腸内細菌移植マウスの方が魚油食の腸内細菌移植マウスよりもCLSが有意に多かった

<論文要旨>
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1550413115003897

この研究はラットでの試験なのでそのままヒトに当てはめるべきではありませんが、とても興味深い結果ですbulb

最新の国民健康・栄養調査報告を見てみると、10年前と比較して日本人は肉類の摂取量が増えアップ魚介類の摂取量が減少ダウンしています。

魚介類は「調理が面倒」「骨などがあって食べにくい」「臭いが苦手」「価格が高い」などとあまり召し上がられない方もいらっしゃるかもしれませんが、健康のためにも日々の食事に取り入れていきたいですねうお座

もし魚を食事に取り入れるのが難しい場合には、魚油が配合されているサプリメントなどを活用するのもひとつの手ですグッド!キラキラ

また、腸内環境を良くすることも重要ですビックリマーク
ヨーグルトや漬物、納豆などの発酵食品や、野菜、キノコ、海藻などの食物繊維が豊富な食材は腸内環境を整えるためにお勧めです合格

でも、「魚油のサプリメントを摂っているから」とか「腸内環境を整えるものをちゃんと食べているから」と飽和脂肪酸が豊富な脂肪たっぷりの肉、生クリーム、チーズなどを食べ過ぎないでくださいね注意

2016061531

(さ)

<参考>
・コトバンク(https://kotobank.jp/word/%E9%A3%BC%E6%96%99%E5%8A%B9%E7%8E%87-767614)
・http://jams.med.or.jp/symposium/full/126038.pdf
・星薬科大学のHP(http://polaris.hoshi.ac.jp/openresearch/kamata%20(adipocyte)–2.html)
・Tool受容体の機能(生化学 第81巻 第3号,pp.156―164,2009)
・Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 May 28;110(22):9066-71.(アッカーマンシアの抗肥満、抗2型糖尿病の効果)
・平成25年国民健康・栄養調査報告(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h25-houkoku.html)

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