6月に大変好評だった『合成甘味料』の記事で、グレリンというホルモンが出てきたのを覚えていますか
本当はお腹がすいていないはずなのに、お腹がすいたような気になってついつい何か食べてしまう…
この空腹感に関わるホルモンがグレリンです
今回は、空腹ホルモン「グレリン」について簡単にご紹介します
●グレリンとは
グレリンは日本の研究者が発見したホルモンで、その名前の由来は、強力に成長ホルモンの分泌を促進することから、英語の“grow”がインド・ヨーロッパ基語で“ghre”であることと、成長ホルモンを放出する(release)という意味が込められています。
主に胃内分泌細胞で作られ、成長ホルモンや胃酸分泌、胃運動などの消化管機能調節、食欲増進、体重増加などの重要な働きをします
この作用は、脂肪細胞から分泌されるホルモンのレプチンとは反対の働きをし、炎症を引き起こす物質を減少させたり、エネルギー代謝の調節作用や血圧降下などの作用も明らかとなってきています。
※レプチンについては以前書いた「レプチンについて」の記事を参照してください
胃以外では腸や心臓、すい臓、視床下部、胎盤などでもグレリンは作られています。
●グレリンの働き
そのメカニズムには不明の点もありますが、現在分かってきている働きをご紹介します
・成長ホルモンの分泌
グレリンは視床下部に働きかけて成長ホルモンを分泌させます。
成長ホルモンは骨や筋肉を増やしたり、体を回復させたり、脂肪を燃焼させたりなどの働きがあります
発育期の子供の食欲が旺盛なのは、このホルモンの働きによるものかもしれません
・食欲増進
視床下部は食欲中枢でもあり、食欲にも関わっています。
主に胃から分泌されるグレリンは、空腹時にたくさん分泌され、視床下部に働きかけることで食欲を増進させます
食べ物(主に糖質)がある程度胃に入ると、グレリンの分泌は減って食欲がなくなると考えられています。
・脂肪の蓄積
グレリンには脂肪をため込んで、体重を増やす効果もあります
正常な身体のバランスの状態では、グレリンは肥満になると減り、痩せると増えるような調節が行われますが、太りやすい体質の人では食後にもグレリンが低下しないことが肥満の原因のひとつと考えられています
・胃機能調節
グレリンは、胃酸の分泌や胃の運動など胃の機能調節に働いています
胃の中でグレリンを分泌するグレリン細胞は、胃体部の内分泌細胞の20~25%を占め、ヒスタミンを産生する細胞の次に多い内分泌細胞です。
・インスリン分泌の調節
血糖値を下げるインスリンを分泌する膵臓のランゲルハンス島では、グレリンはインスリンの作用に関わると言われています
グレリンは、高血糖状態ではインスリン分泌を促進しますが、低血糖状態ではインスリンを分泌しないように働いて糖代謝に関わっている可能性があります
また、肥満があってもインスリンが正常に作用している人ではグレリン濃度が高く、2型糖尿病になりやすいインスリン抵抗性のある人ではグレリン濃度が低いそうです
食欲を増強させ、脂肪を蓄積させてしまうグレリンは、多くの人にとって悪者というイメージがつきやすいですが、他にも多発性硬化症、関節炎、敗血症などの病気を抑えたり、小人症や神経性摂食障害の治療への効果が期待されています
さらに筋肉を増強したり心臓を保護するような効果があり、心筋梗塞などにも良いようです
心筋梗塞は肥満やメタボによって危険性が高まるので、食欲を増強させるホルモンであるグレリンが心筋梗塞に効果を発揮するなんて、なんとも皮肉というか興味深いですね
ちなみに、漢方薬の世界で食欲不振に処方されてきた六君子湯(りっくんしとう)は、胃切除術後の患者さんに対してグレリンを増加させて、食欲増進、体重増加、胃腸障害抑制、身体機能の向上に期待できるとの報告があります
今はまだマイナーなホルモンですが、グレリンってすごいですね
そろそろおやつの時間です
私の胃からグレリンが分泌されているようです
(さ)
<参考>
・富山大学工学部環境応用化学科のホームページ
・長崎国際大学のホームページ
・国立純化危機病研究センター研究所のホームページ
・国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 免疫研究部 三宅研究室(自己免疫・神経免疫研究室)のホームページ
・埼玉医科大学雑誌 第37巻 第1号別頁 平成22年8月(ラットの胃酸分泌に及ぼすアシルグレリンとデスアシルグレリンの作用の比較)
・[PMID: 24766295] Neurogastroenterol Motil. 2014 Apr 28. doi: 10.1111/nmo.12348.
・日内会誌 102:174~178,2013(グレリン創薬の臨床研究―変形性股関節症周術期患者への投与例)
・肥満の化学[ II ]肥満のメカニズム 2.胃から発見された摂食亢進ペプチド:グレリン