最近、2型糖尿病のインスリン分泌障害に対して「インクレチン」と呼ばれるホルモンが注目されています
そこで今回は2型糖尿病とインクレチンについて簡単にまとめたいと思います
◆2型糖尿病について
糖尿病は、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、その他(遺伝や病気など)に大別できますが、日本の糖尿病のほとんどは2型糖尿病であると言われています
2型糖尿病は、
①インスリンの分泌量が少なくなって起こるもの
②肝臓や筋肉などの細胞がインスリン作用をあまり感じなくなる(インスリン抵抗性)ために、ブドウ糖がうまく取り入れられなくなって起こるもの
があり、多くの場合に食事や運動などの生活習慣が関係しているため、「生活習慣病」とも言われます
膵臓からのインスリン分泌が少なくなったり、インスリン抵抗性が表れると、血液中のブドウ糖(血糖)は細胞の中に入りにくくなってしまうため血液中にブドウ糖が余ってしまいます
この余っているブドウ糖は、本来であれば細胞の中に入ってエネルーギー源として使われるものですが、この状態が長く続くと細胞のエネルギー不足による色々な症状が出てきます
また、この高血糖状態そのものが血管を含めて全身の各細胞に様々な障害を与えてしまいます
例えば、糖尿病性腎症や糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害などは高血糖による細胞障害が原因だと言われています
◆インクレチンとは
食事からの栄養素の刺激によって腸管上皮に散在している細胞(K細胞やL細胞)から分泌され、膵臓のβ細胞に作用してインスリン分泌を促すホルモンの総称です
ブドウ糖を口から摂取した時と静脈注射した時を比較すると、血糖の上昇は同程度であっても口から摂取した時の方がインスリン分泌は明らかに高くなることが知られており、これはインクレチンによるインスリン分泌増強効果と考えられています
これまでにGIP(gastric inhibitory polypeptide または glucose-dependent insulinotropic polypeptide)とGLP-1(glucagons-like peptide-1:グルカゴン様ペプチド1)の2つのホルモンが「インクレチン」として機能することが分かっています
インクレチンのうちGLP-1はインスリンの分泌促進やインスリンが分泌される膵臓のβ細胞の増殖促進作用、その他にグルカゴン分泌や食欲の抑制などの働きがあるとされており、2型糖尿病では分泌量が低下しているとの報告もあります
ちなみにGIPには骨を強くする作用やインスリン分泌促進作用もありますが、インスリン分泌作用はGLP-1と比べて小さく、また、GIP は体内への脂肪蓄積作用もあるため、糖尿病治療においてはGLP-1の方が注目されています
※グルカゴンとは、すい臓のα細胞から分泌されるホルモンで、肝臓に作用してグリコーゲンや中性脂肪を分解、アミノ酸や乳酸からの糖新生を促進することでインスリンとは逆に血糖を上げる働きをして糖尿病の高血糖状態の重大な原因となることが分かっています
<GLP-1の働き>
日本人は欧米人と比べてインスリンの分泌量が少ないため、特にインスリン分泌量が少ない糖尿病患者の場合には、インスリンをしっかりと分泌させることが大切です
インクレチンは、臨床の場で頻用されているスルホニル尿素(SU)薬と異なる機構でインスリン分泌を促進するだけでなく、上皮細胞や内皮細胞、リンパ球などの細胞膜や血中にも存在している酵素(DPP-4)によって速やかに不活性化されて血中半減期がとても短く安全性が高いと考えられ、糖尿病薬として注目を集めています
薬以外では、肥満の原因となりうるGIP分泌や食後高血糖を抑制し、さらに食欲抑制作用をもつGLP-1分泌を促進させるような食事管理が理想であると言われています
GIP分泌を抑制してGLP-1分泌を促進させるには、『繊維量が多い食事』が有効のようです
食物繊維(特に水溶性食物繊維)の摂取は、食後の急激な血糖値の上昇を抑制するため糖尿病やその予防に良いと言われていますが、インクレチン(GLP-1)分泌においてもお勧めです
現代の日本人は食物繊維の摂取量がとても少なくなってきているため、野菜や豆類、キノコ、海藻類などの繊維の多い食品を意識して食事に取り入れたいですね
食事で十分な繊維の摂取が難しい場合には健康食品の活用もお勧めですが、私はグアー豆からとれるグアーガムという水溶性の食物繊維が一押しです
グアーガムは、
・便通改善(便秘にも下痢にも効果的)
・食事後の高血糖抑制
・血中コレステロール値の低下
・有害物質や老廃物の排泄
などの効果も期待できますよ
また、魚油(EPA、DHA)やスパイスのターメリック(ウコン)に含まれるクルクミン、カカオに含まれるプロシアニジン(ポリフェノール)など様々な栄養素にもGLP-1の分泌を促進する作用が分かっていて、研究が進められているようです
(さ)
<参考>
・厚生労働省のホームページ
・国立循環器病研究センター病院のホームページ
・京都大学 糖尿病・内分泌ームページ
・第68回日本栄養・食糧学会大会(北海道)発表内容
・糖尿病治療を変える新たな糖尿病薬「インクレチン」(昭和医会誌 第70巻 第1号〔34-44頁.2010〕)
・特集 糖尿病治療薬 Up to Date「インクレチンとは?」(Vol.1 No.2 2009/7 月刊糖尿病)
・「インクレチンの 歴史と概念」(月刊糖尿病 別冊 インクレチン)
・中部大学 応用生物学部 食品栄養価学科 津田研究室のホームページ
・神戸学院大学 薬学部 薬物送達システム学研究室のホームページ
・糖尿病サイト http://www.club-dm.jp/